一人親方に関する判断基準(2)
1 使用従属性に関する判断基準
(1)指揮監督下の労働
イ 仕事の依頼、業務に従事すべき旨の指示等に対する諾否の自由の有無
具体的な仕事の依頼、業務に従事すべき旨の指示等に対して諾否の自由があることは、指揮監督関係の存在を否定する重要な要素となる。
他方、このような諾否の自由がないことは、一応、指揮監督関係を肯定する要素の一つとなる。ただし、断ると次から仕事が来なくなるなどの事情により事実上仕事の依頼に対する諾否の自由がない場合や、例えば電気工事が終わらないと壁の工事ができないなど作業が他の職種との有機的連続性をもって行われるため、業務従事の指示を拒否することが業務の性質上そもそもできない場合には、諾否の自由の制約は直ちに指揮監督関係を肯定する要素とはならず、契約内容や諾否の自由が制限される程度等を勘案する必要がある。
ロ 業務遂行上の指揮監督の有無
(イ)業務の内容及び遂行方法に対する指揮命令の有無
設計図、仕様書、指示書等の交付によって作業の指示がなされている場合であっても、当該指示が通常注文者が行う程度の指示等に止まる場合には指揮監督関係の存在を肯定する要素とはならない。他方、当該指示書等により作業の具体的内容・方法等が指示されており、業務の遂行が「使用者」の具体的な指揮命令を受けて行われていると認められる場合には、指揮監督関係の存在を肯定する重要な要素となる。
工程についての他の職種との調整を元請け、工務店、専門工事業者、一次業者の責任者等が行っていることは、業務の性格上当然であるので、このことは業務遂行上の指揮監督関係の存否に関係するものではない。
(ロ)その他
「使用者」の命令、依頼等により通常予定されている業務以外の業務に従事することがある場合には、使用者の一般的な指揮監督を受けているとの判断を補強する重要な要素となる。
ハ 拘束性の有無
勤務場所が建築現場、刻みの作業場等に指定されていることは、業務の性格上当然であるので、このことは直ちに指揮監督関係を肯定する要素とはならない。
勤務時間が指定され、管理されていることは、一般的には指揮監督関係を肯定する要素となる。ただし、他職種との工程の調整の必要がある場合や、近隣に対する騒音等の配慮の必要がある場合には、勤務時間の指定がなされたというだけでは指揮監督関係を肯定する要素とはならない。
一方、労務提供の量及び配分を自ら決定でき、契約に定められた量の労務を提供すれば、契約において予定された工期の終了前でも契約が履行されたこととなり、他の仕事に従事できる場合は、指揮監督関係を弱める要素となる。
ニ 代理性の有無
本人に代わって他のものが労務を提供することが認められている場合や、本人が自らの判断によって補助者を使うことが認められている場合等労務提供の代替性が認められている場合には、指揮監督関係を否定する要素の一つとなる。他方、代替性が認められていない場合には、指揮監督関係の存在を補強する要素の一つとなる。
ただし、労働契約の内容によっては、本人の判断で必要な数の補助者を使用する権限が与えられている場合もある。このため、単なる補助者の使用の有無という外形的な判断のみではなく、自分の判断で人を採用できるかどうかなど補助者使用に関する本人の権限の程度や、作業の一部を手伝わせるだけかあるいは作業の全部を任せるのかなど本人と補助者との作業の分担状況等を勘案する必要がある。
(2)報酬の労務対償性に関する判断基準
報酬が、1㎡を単位とするなど出来高で計算する場合や、報酬の支払に当たって手間請け従事者から請求書を提出させる場合であっても、単にこのことのみでは使用従属性を否定する要素とはならない。
報酬が、時間給、日給、月給等時間を単位として計算される場合には、使用従属性を補強する重要な要素となる。
2 労働者性の判断を補強する要素
(1)事業者性の有無
イ 機械、器具等の負担関係
据置式の工具など高価な器具を所有しており、当該手間請け業務にこれを使用している場合には、事業者としての性格が強く、労働者性を弱める要素となる。
他方、高価な器具を所有している場合であっても、手間請け業務にはこれを使用せず、工務店、専門工事業者、一次業者等の器具を使用している場合には、労働者性を弱める要素とはならない。
電動の手持ち工具程度の器具を所有していることや、釘材等の軽微な材料費を負担していることは、労働者性を弱める要素とはならない。
ロ 報酬の額
報酬の額が当該工務店、専門工事業者、一次業者等の同種の業務に従事する正規従業員に比して著しく高額な場合には、労働者性を弱める要素となる。
しかし、月額等でみた報酬の額が高額である場合であっても、それが長時間労働している結果であり、単位時間当たりの報酬の額を見ると同種の業務に従事する正規従業員に比して著しく高額とはいえない場合もあり、この場合には労働者性を弱める要素とはな
らない。
ハ その他
当該手間請け従事者が、①材料の刻みミスによる損失、組立時の失敗などによる損害、②建物等目的物の不可抗力による滅失、毀損等に伴う損害、③施工の遅延による損害について責任を負う場合には、事業者性を補強する要素となる。また、手間請け従事者が業務を行うについて第三者に損害を与えた場合に、当該手間請け従事者が専ら責任を負うべきとも、事業者性を補強する要素となる。
さらに、当該手間請け従事者が独自の商号を使用している場合にも、事業者性を補強する要素となる。
(2)専属性の程度
特定の企業に対する専属性の有無は、直接に使用従属性の有無を左右するものではなく、特に専属性がないことをもって労働者性を弱めることとはならないが、労働者性の有無に関する判断を補強する要素の一つと考えられる。
具体的には、特定の企業の仕事のみを長期にわたって継続して請けている場合には、労働者性を補強する要素の一つとなる。
(3)その他
イ 報酬について給与所得として源泉徴収を行っていることは、労働者性を補強する要素の一つとなる。
ロ 発注書、仕様書等の交付により契約を行っていることは、一般的には事業者性を推認する要素となる。ただし、税務上有利であったり、会計上の処理の必要性等からこのような書面の交付を行っている場合もあり、発注書、仕様書等の交付という事実だけから判断するのではなく、これらの書面の内容が事業者性を推認するに足りるものであるか否かを検討する必要がある。
ニ いわゆる「手間貸し」(手間返し)の場合においては、手間の貸し借りを行っている者の間では、労働基準法上の労働者性の問題は生じないものと考える。
ハ ある者が手間請けの他に事業主として請負業務を他の日に行っていることは、手間請けを行っている日の労働者性の判断に何ら影響を及ぼすものではないため、手間請けを行っている日の労働者性の判断は、これとは独立に行うべきものである。
ニ いわゆる「手間貸し」(手間返し)の場合においては、手間の貸し借りを行っている者の間では、労働基準法上の労働者性の問題は生じないものと考える。
参考 労働基準法研究会労働契約等法制部会
向田社会保険労務士事務所 建設業あゆみ一人親方組合 労働保険事務組合ゆとり創造協会